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第170回月例発表会 後半 (B4)

2025-08-20

2025年8月20日の第170回月例発表会(後半)において,末澤 智崇 (B4),平井 佑樹 (B4),小林 孝広 (B4),小野 真如 (B4),光久 祥矢 (B4),馬渕 皓輝 (B4)の6名が中間報告を行いました.

ネットワーク環境変動下の通信における QUIC-LB の有効性の検証 (末澤 智崇)

20250820 SSuezawa

2021 年,IETF は TCP や UDP に次ぐ新たなトランスポートプロトコルとして QUIC を標準化した.QUIC は,低遅延で安全な通信が行え,Chrome や Android の Youtube アプリでも使われている.QUIC にはコネクションマイグレーションというクライアントの IP アドレスやポート番号が変化してもコネクションを維持することができる機能があり,ネットワーク回線の切り替え等に対応することができるという利点がある.一方で,QUIC にはネットワークインフラへの導入において,負荷分散の実現が難しいという課題がある.例えば,Wi-Fi のアクセスポイントや 4G/5G の切り替えなどによって,クライアントの IP アドレスやポート番号が変化することがある.クライアントとサーバのみの通信の場合,コネクションマイグレーションの機能により対応可能である.しかし,従来の L4 ロードバランサ(本論文では以降,L4LB とする)を用いた場合,パケットが別のサーバに振り分けられ,通信が中断されるという課題がある.この課題への対策として,IETF では QUIC 接続に対応した L4LB である QUIC-LBが提案されているが,現在は標準化には至っておらず,その有効性も不明瞭である.そこで本研究では,QUIC-LB の有効性を明らかにすることを目的とし,通信の安定性の観点から検証を行う.またその際,実運用では Wi-Fi のアクセスポイントや 4G/5G の切り替えにより IP アドレスが頻繁に変化することが想定されるため,そのようなネットワーク環境変動下を想定した検証を行う.

人間らしいゲーム AI の客観的評価指標の提案 (平井 佑樹)

20250820 YHirai

近年,ゲーム分野において人工知能(AI: Artificial Intelligence)の活用が広がっており,強いゲーム AI や難易度調整など,さまざまな場面で高度なゲーム AI が活躍している.これらのゲーム AI は,「プレイヤーに勝つ」「最適な手を選ぶ」といった強さや効率を重視して開発されることが多かった.一方で,人間と遊んでいるかのような自然さや親しみやすさを持つ「人間らしいゲーム AI」への関心も高まっている.近年では,対戦ゲームや協力ゲーム,教育用途など,プレイヤー体験の質を高める手段として,ゲーム AI に人間らしい振る舞いが求められている.しかし,これまでの人間らしいゲーム AI の評価は,アンケートなどの主観的かつ定性的な手法に依存している場合が多い.すなわち,人間らしいゲーム AI において,AI 同士の比較や改良による優劣判断が曖昧になり,評価結果の再現性や客観性に欠けるという課題がある.そこで本研究では,ゲーム AI の人間らしさを客観的かつ定量的に評価するための指標を提案する.人間のプレイデータに基づいた複数の指標を用いて,「このゲーム AI はどの程度人間らしいか」を客観的かつ定量的に示せる仕組みの構築をする.

隊列走行時の通信性能向上を目的とした車両位置別強化学習による通信技術動的選択 (小林 孝広)

20250820 TKobayashi

自動運転技術の発展に伴い,車両間通信を活用した協調型自動運転が注目されている.その応用技術の一つである隊列走行は,複数の車両が一定の車間距離と速度を保って走行するものであり,交通の安全性向上や燃費削減,走行効率の改善といった効果が期待されている.隊列走行を実現するためには,車両同士が自車位置や速度,通信状況などを定期的に交換し,安全かつ効率的な走行を支援する通信が不可欠である.現在,車両間通信には,基地局を経由して通信を行う NR Uu と LTE Uu,および直接通信を行う NR PC5 が存在する.NR Uu と LTE Uu はいずれも基地局経由のセルラー通信技術であるが,NR Uu は 5G ネットワークを利用し,LTE Uu に比べて理論的な最大スループットや通信遅延性能に優れるほか,ネットワークスライシングや高周波数帯の活用による柔軟なサービス提供が可能である.一方,LTE Uu は 4G ネットワークを用いた方式であり,既存のインフラを広く活用できる反面,NR Uu に比べて通信遅延やスループットの面で劣る.両者はいずれも広い通信範囲を有する一方,ネットワーク負荷や基地局との距離によって通信遅延や信頼性が変動し,高トラフィック環境や電波遮蔽下では性能低下が生じやすい.NR PC5 は低通信遅延で直接通信が可能である一方,自律的なリソース選択方式に起因するパケット衝突や通信距離の制約といった課題がある.従来の隊列走行システムでは、これらの通信技術が事前に固定的に設定され、運用中に変更されることはほとんどなく,交通状況や通信環境の変動に対して柔軟に対応できない.その結果,通信遅延の増加やパケット損失の発生につながり,隊列走行の安全性や効率を低下させる可能性がある.本研究では,この課題を解決するため,車両の速度,車間距離,通信密度,通信遅延といった観測値に基づき,通信技術を強化学習により動的に選択する方式を提案する.さらに,隊列内の車両を先頭車両,中継車両,最後尾車両に分類し,それぞれの役割に応じた強化学習モデルを設計することで,通信効率と信頼性の向上を図る.

FSMDNN によるプレイスタイル模倣精度向上のための状況適応型学習手法の提案 (小野 真如)

20250820 MOno

近年,ゲームにおける人工知能(以降 AI)技術は著しい発展を遂げており,特に対戦型ゲームにおいては人間を上回る性能を発揮する AI が登場している.一方で,AI の行動が過度に最適化されることで,プレイヤとの対戦において「自然な応答性」や「駆け引きの妙」が失われるという課題も指摘されている.こうした背景の下,プレイヤの行動特性を模倣する研究が注目されつつあるが,その精度はまだ限定的であり,特に状況に応じたプレイスタイルの動的な変化を再現する点においては未解決の課題が残されている.本研究では,2D 格闘ゲームを対象に,特定プレイヤのプレイスタイルを状況に応じて動的に模倣する AI の実現を目指す.AI の模倣精度を向上させることで,プレイヤが行う戦術の変化をより正確に再現し,自然な対戦・協力体験を実現する.これにより,ゲームにおけるユーザ体験が期待され,プレイヤにとってより魅力的なゲーム体験を提供することが可能となる.

視線入力におけるフリック方式の高速化のための確定操作設計 (光久 祥矢)

20250820 SMitsuhisa

VR/AR 環境では従来の物理キーボードの利用が難しく,新たな文字入力方式が求められている.とりわけ視線入力は,ハンズフリーで操作できるため,日常的な没入環境だけでなく身体に制約のある利用者にとっても有効な選択肢となり得る.一方,視線入力の確定操作は多くが一定時間の注視(Dwell)に依存しており,(i) 入力テンポが注視時間に制約される,(ii) 短時間の偶発的注視でも確定してしまう(Midas Touch)といった課題がある.本研究は,日本語で広く用いられるフリックかな配列に着目し,明示的な確定操作を導入することで,Dwell 依存を避けつつ誤確定を低減し,入力の即応性を高める方式を設計する.

協調型自動運転における Hybrid V2X を活用した低遅延化と信頼性向上の検討 (馬渕 皓輝)

20250820 KMabuchi

自動運転技術に関する研究では,V2X(Vehicle-to-Everything) 通信を利用し,車両情報を含む道路上の動的データを共有し,他の車両や歩行者などの存在を考慮したより安全な手法が検討されている.V2X 通信の分類は4種類あり,車車間通信のV2V(Vehicle-to-Vehicle) 通信,車両と道路インフラ間の通信のV2I(Vehicle-to-Infrastructure) 通信,車両と歩行者の間の通信のV2P(Vehicle-to-Pedestrian) 通信,車両とネットワークの間の通信のV2N(Vehicle-to-Network) 通信がある.また,V2X 通信の中でも,LTE (Long Term Evolution) を利用する手法は,特に LTE-V2X と呼ばれる.LTE-V2X のアーキテクチャには,PC5 インターフェース (以下,PC5) と Uu インターフェース (以下,Uu) がある.PC5 は,デバイス間通信により LTE カバレッジ内で並列送信が可能であり,V2V 通信,V2I 通信,および V2P 通信に利用される.一方,Uu は,上りでは各端末から基地局へのユニキャスト配信,下りでは基地局から全端末へのブロードキャスト配信が可能であり,V2N 通信に利用される.V2V 通信と V2N 通信では,場合により発生する通信量に差がある.V2V 通信の計算量は車両台数 n に対し O(n^2) となり,車両数の増加により通信量が膨大になる.一方,V2N 通信では車両はサーバとの通信のみ行うため,計算量は O(n) となる.車両数の増加により通信量が膨大になることはないが,サーバとの通信を行うため一定の通信量が常時発生する.そこで本研究では,交通状況に応じ,PC5 を利用したV2V 通信と Uu を利用した V2N 通信を併用する Hybrid V2X を提案し,シミュレーション実験により通信の低遅延化と信頼性向上に対する効果を検討する.

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