2020年7月18日の第116回月例発表会(M1)において,細野 航平(M1),田中 佳輝(M1),東山 紘樹(M1),上原 夏紀(M1),林 聡一郎(M1),奥西 理貴(M1),中井 綾一(M1),中田 輝(M1)の8名が以下のタイトルで発表を行いました.

  1. ダイナミックマップにおける交通環境を考慮した送信間隔制御による優先処理機能(細野 航平)
  2. 車両走行情報を用いたドライバーの歩行者認識の推定モデルの検討(田中 佳輝)
  3. 時空間グリッド予約システムにおける予約方向制御を用いた交差点調停手法(東山 紘樹)
  4. 基地局周辺の混在状況を考慮した車両誘導によるV2X通信の効率化の検討(上原 夏紀)
  5. 車両走行環境を考慮したHUDをAR表示による安全と効率の検討(林 聡一郎)
  6. MPQUICを用いた通信経路喪失によるパケットロス削減手法(奥西 理貴)
  7. V2X通信における車両密度を考慮した動的仮名変更方式の検討(中井 綾一)
  8. ダイナミックマップを利用した動的道路課金による渋滞緩和手法の検討(中田 輝)

ダイナミックマップにおける交通環境を考慮した送信間隔制御による優先処理機能(細野 航平)

 車載センサから得られたデータはダイナミックマップを管理するサーバに送信され,それに基づいて協調型自動運転を実現するアプリケーションが動作する.そのため,車両から送信される動的情報は常にサーバへと送信される必要があり,サーバは低遅延でデータを処理し,車両に送信する必要がある.また,一般に車両は100ミリ秒周期でダイナミックマップに送信する.しかし,ダイナミックマップが扱う車両台数は膨大で,すべての車両が高頻度にデータを送信し続けると輻輳が懸念される.
 そこで,車両周辺の交通環境などを考慮し,データの送信間隔を調整することで輻輳の緩和が期待できる.車両周辺の交通環境をもとに車両が走行する車線を区間(レーンID)に分け,レーンIDごとに優先度を設定し,優先度に合わせて車両からのデータの送信間隔を調整する,優先処理機能を実装する.

車両走行情報を用いたドライバーの歩行者認識の推定モデルの検討(田中 佳輝)

 近年,高度道路交通システム(ITS:Intelligent TransportSystems)の分野において研究開発が活発に行われ,さまざまな運転支援システムが普及してきている.その中の1つに衝突回避支援システムがあり,ドライバーに対して警報や自動ブレーキなどの制御を行うことで,ドライバーの安全運転を支援するというものである.このシステムは,車両に搭載されたステレオカメラやミリ波レーダーといったセンサを利用し,車両や歩行者などの対象物との距離や相対速度をセンシングすることで実現される.このようなシステムはすでに実用化されており,交通事故を未然に防ぐことやその被害を軽減することに貢献している.また,車車間通信や歩車間通信の技術的発展により,周辺の車両や歩行者との位置情報や速度情報などの共有が可能となり,それらの情報を利用した協調型運転支援システムの研究が行われている.このようなシステムでは,ステレオカメラやミリ波レーダといったセンサによるセンシングのみでは得られない情報を利用した運転支援が可能となり,ドライバーにとってより効果の高い運転支援が実現できると期待されている.しかし,現在検討されている協調型運転支援システムは,ドライバーの周辺環境に対する認識状態を考慮した運転支援を行っていない.例えば,周辺に存在するすべての歩行者を気付かせるような警告を行った場合,ドライバーが既に認識している歩行者に対しても警告することになり,慣れによる効果の低下や煩わしさが問題となる.そのため,ドライバーの歩行者に対する認識状態を推定することができれば,効果的な情報提供の手法を検討することが可能となる.そこで本研究では,ドライバーが車両を運転している際に,道路を横断している歩行者に対する認識状態の推定を行う.本研究における歩行者の認識状態とは「ドライバーが衝突する可能性のある歩行者を認識しているかどうか」を指す.ドライビングシミュレータにより取得したデータから,いくつかの機械学習を用いて複数の推定モデルを作成し,その推定を考慮した警告システムを実装することで,推定の効果やその応用について検討を行う.

時空間グリッド予約システムにおける予約方向制御を用いた交差点調停手法(東山 紘樹)

 近年,自動運転に関する研究が盛んにおこなわれている.車両が自らのセンサで周囲の状況を把握し,自律的に自動走行を行うものに加えて,通信を用いて他の車両と情報を共有して協調的に走行するコネクテッドカー(ConnectedAutonomous Vehicles)についても検討が進められている.コネクテッドカーが情報を共有する仕組みの1つとして,ダイナミックマップがある.ダイナミックマップは車両情報や道路情報を情報の更新頻度によって階層化して管理するシステムである.これにより,コネクテッドカーあるいは走行調停システムは周辺環境の変化に対応した動的な地図を取得可能となり,リアルタイムかつ高精度に周辺環境を認知することが可能となる.このダイナミックマップを応用した走行調停手法として時空間グリッド予約システムがある.時間と道路上の空間をグリッドに分割し,ダイナミックマップ上で管理し,各コネクテッドカーが事前に特定の時刻に通過予定の地点を予約し,予約情報に基づいた調停・走行を行うものである.先行研究ではこの基礎となるシステムを単一交差点を想定して構築し,旅行時間や計算量において考察が行われ,他の予約ベースの走行調停手法に比べて有用である可能性を示した.しかし,いくつかの解決すべき問題点があり,本研究では問題点の検証を行った上で改善手法を提案する.

基地局周辺の混在状況を考慮した車両誘導によるV2X通信の効率化の検討(上原 夏紀)

 現在,走行中の各車両と基地局が通信によってつながることで各車両の基本情報(身元,位置,方向,速度等)を共有するV2Xシステムが検討されている.これが実現すると,車両は周辺車両の情報を事前に手に入れられるので交差点付近の様な死角が多い危険な場所でも安全でスムーズな走行が期待される.また,事前にV2X通信品質を把握できるようになれば,より多くの情報を得るように経路を変更することで旅行時間が短縮出来る可能性がある.しかし,もし基地局に車両が集中するといった事態が発生した場合,通信トラフィックが混雑することでV2X通信が満足に機能しない事態が考えられる.これを防ぐには各車両が基地局の混雑状況を把握し,集中している基地局を避けるように経路を調整するシステムが必要だと考える.よって,本研究ではダイナミックマップに随時,基地局周辺の車両数を反映させることによって混雑状況を管理し,その情報を用いて車両を比較的空いている基地局に誘導する手法を提案する.また,この提案手法を用いることでどれほどの旅行時間を減らせるか評価することでV2X通信の効率化を検討する.

車両走行環境を考慮したHUDをAR表示による安全と効率の検討(林 聡一郎)

 現在,車のナビゲーションシステムが開発されている.車のナビゲーションシステムには,前方の道路にARを表示するHUDや車にディスプレイを設置するHDD,頭部に装着するHMDが存在する.現在HUDは,航空機だけでなく鉄道車両や自動車等にも使用されるようになっている.HUDを車のナビゲーションシステムに使用すると,HUDは道路から目を離す必要がなく,運転パフォーマンスを向上させることができる.

MPQUICを用いた通信経路喪失によるパケットロス削減手法(奥西 理貴)

 近年の大容量コンテンツの普及に伴い,複数のインターフェースを同時に利用し,帯域を集約する技術が求められている.特に,モバイル端末においては,LTEや5Gといったセルラや,Wi-Fiといった無線LANでの同時接続が考えられる.Multipath TCP(MPTCP)は複数のインターフェースを用いて通信を行うことができるTCPの拡張であり,帯域集約や接続障害耐性,シームレスなハンドオーバを提供する.一方で,モバイル端末が移動することを考えると5GやWi-Fiの通信範囲や配置間隔を考慮すると,それらでの接続は一時的なものとなり,通信経路の喪失が頻繁に起こることが想定される.しかし,MPTCPは内部的にTCPコネクションを複数利用するものであるため,TCPが持つ本質的な課題から,通信経路の喪失時にパケットロスが生じる可能性がある.
 本研究では ,MPTCPに代わりMultipathQUIC(MPQUIC)を用いることで,ハンドオーバ によって通信経路を喪失した際のパケットロスを削減する手法を提案する.

V2X通信における車両密度を考慮した動的仮名変更方式の検討(中井 綾一)

 近年,V2X(Vehicle to Everything)通信の研究が盛んに行われている.このV2X通信を用いたアプリケーションでは,車両の位置情報や個人情報を利用するため,車両のプライバシ保護について懸念がされている.例えば,攻撃者に位置情報を含むV2X通信を盗聴され続けたとすると,攻撃者は車両の位置情報を追跡することができ,所有者の行動パターンなどを容易に把握することが可能となる.この課題を解決するために,有効なプライバシ保護手法として,仮名を用いた手法が知られている.仮名とは,特定の車両の位置情報などを追跡できないようにするため,V2X通信機器に割り当てられる仮の識別子である.この仮名を,時間経過により変化させることで,車両の追跡を困難にすることができる.しかし,単純な仮名変更では,攻撃者に仮名の変更周期を特定されてしまうと,変更前の仮名と変更後の仮名を紐づけられる危険性がある.
 そこで本研究では,車両密度を閾値として,仮名方式を動的に変更する手法を提案する.そして,匿名性と安全性について評価を行う.

ダイナミックマップを利用した動的道路課金による渋滞緩和手法の検討(中田 輝)

 交通渋滞問題は,特に大都市の道路を日常的に利用する住民にとって共通の問題である.交通渋滞は,目的地までの旅行時間が長くなるという点のみならず,燃費消費量の大幅な増加が大気汚染の原因となり,環境問題としても解決をすべき課題となっている.渋滞問題を解決するための手法の一つとして,道路課金が挙げられる.これは,混雑が予想される道路の走行に対して金銭を必要とすることで車両数の緩和を図るという手法である.世界の交通渋滞が課題となっていたいくつかの都心部では既に渋滞緩和のための道路課金が実施されており,渋滞を緩和することができたという結果を示した事例も存在する.しかし,ほとんどの事例は混雑をする一部の道路を課金エリアと設定しているため,課金エリアに指定された範囲外の道路では,反対に交通渋滞を引き起こしてしまうという問題が発生してしまう.本論文では,従来の一部の課金エリアを設定した道路課金手法ではなく,都市全体としての渋滞緩和を目的とする.そのために,ダイナミックマップを利用し車両のリアルタイムでの位置情報を集約することによって,車両密度が他の道路よりも高くなっている道路への進入に対して道路課金を設定し,渋滞の緩和を図る.また,ダイナミックマップを利用することによって車両密度のみならず,交通事故や道路工事などの道路情報を道路課金に反映することによってより柔軟な走行を目指す.