2020年11月14日の三研究合同中間発表(M2)において,畑山 諒太(M2),中川 凌(M2),生駒 大志郎(M2),岡村 俊樹(M2),廣辻 侑哉(M2),岸田 慎之介(M2)の6名が以下のタイトルで発表を行いました.
- 車内での PC 操作が起因となる車酔い緩和手法の提案(畑山 諒太)
- 動的遮蔽物を考慮したビーコン情報のマルチホップによる屋内位置推定(中川 凌)
- ビットコインにおけるマイニングパワーを考慮したブロック生成時間安定手法の提案(生駒 大志郎)
- 車両相互監視と位置外れ値検出による V2X 通信なりすまし検知手法(岡村 俊樹)
- ドローンにおける電波強度を用いた通信暗号化の提案(廣辻 侑哉)
- 車両情報を考慮した送信周期決定手法の提案と評価(岸田 慎之介)
車内での PC 操作が起因となる車酔い緩和手法の提案(畑山 諒太)
近年,自動運転に関する研究が盛んに行なわれいる. 車が自動運転化されることにより,運転者は不要となり,車内環境は大幅に変化することが予想される. 今まで必要だった運転者は一乗員となり,車内ではより自由な時間を過ごすことができるようになる. そういった状況において,車内では PC 作業をする機会が増え,車酔いが増加すると予想される. 走行している車内で画面を注視すると,内耳から脳に送られてくる信号と眼球から脳に送られてくる信号に不一致が生じ,脳が「異常」と判断し,自律神経が不安定になる. そして,自律神経が不安定になった結果,吐き気や頭痛といった車酔いの症状が表れるためである.
近年,車の後部座席に TV が取り付けられはじめてからは TV 視聴に対する車酔い対策は行われている. 今後は自動運転車内での PC 操作などの個人作業の増加が想定される. 本研究では,PC 操作などの個人作業は TV 視聴と違い,画面への集中力が高く,車酔いを誘発しやすいと仮定した. そこで,本研究では,車内での PC 作業が起因となる車酔いの緩和手法を提案する. PC 利用者に車が次の交差点で曲がる右左折方向を音声で事前に告知する.検証実験では,本手法による PC 作業が起因となって発症する車酔いの緩和を評価する.
動的遮蔽物を考慮したビーコン情報のマルチホップによる屋内位置推定(中川 凌)
近年,スマートフォンやタブレットなどモバイル端末の利用数が増加しており,モバイル端末上で利用できる様々なサービスがある.そういったサービスには位置情報を利用したものも多くある.
現在,ユーザーが自身の位置情報を入手する方法として,GPS(Global Positioning System)を用いたサービスの利用が一般的である.しかし,屋内や地下といった場所では,GPS信号が届かないことがあり,そういったサービスが利用できないという問題がある.それに伴い,屋内における位置推定に関して多くの研究がなされている.屋内位置推定の手法として,Wi-Fi,BLE(Bluetooth LowEnergy)やスマートフォンなどのモバイル端末に搭載されたセンサなどを用いたものがある.これらの屋内位置推定は実用化に向けた開発が行われており,駅や空港,商業施設などでの利用が期待されている.
しかし,Wi-FiやBLEといった電波は2.4GHz帯の通信帯域を使用しており,電波の反射,遮蔽の影響を受けやすく,水分を多く含む人体による受信電波強度への影響もある.そこで,本研究では,BLEビーコンを増やすのではなく,周囲のスマートフォンやタブレットといったモバイル端末を利用することで位置推定の精度の向上を図る.またその際に,人が複数いることを想定しているため,BLEの電波強度が人体の影響を受けることを考慮した手法を提案する.
ビットコインにおけるマイニングパワーを考慮したブロック生成時間安定手法の提案(生駒 大志郎)
近年,仮想通貨は世界で流通し,どこにも中心を持たないP2P技術を用いた分散型の通貨として,また,法的通貨との交換価格の変動幅や交換所の破綻などの事件で注目を集めている.仮想通貨の代表としてビットコインが挙げられるが,ビットコインの実装を支えている技術がブロックチェーンである.
ブロックチェーンは図1のように,分散型取引台帳とも呼ばれ中央管理体を介さず,ユーザ同士でシステムを管理しあう構造を取る.ブロックチェーンを用いる利点として,第三者の管理を要さないため,情報の価値を信頼できる状態に保つことや改竄が困難なことなどが挙げられる.
ブロックチェーンに実装されている技術は様々であるが,ビットコインのブロックチェーンでは,Proof of Workという合意形成アルゴリズムが用いられている.Proof ofWorkは図2のような構造を実現している.それぞれのブロックは直前のブロックのハッシュ値を持つことで直前のブロックとの整合性を保っており,ナンスというマイナーが見つけ出す答えの存在により,マイナーのモチベーションを保っている.ナンスを見つけ,報酬を得るためにマイナーが電力を消費し,計算することで新しいブロックを作成するという仕組みにより,改竄の困難性や非中央集権性から様々な分野での応用が期待されている.
しかし,ビットコインのブロックチェーンは現状,通貨価値が不安定であり,取引数もブロック数に依存するので,ブロックの生成速度が安定しなければ,取引数も安定せず,実用的とは言えない.現在,Proof of Workはブロックの生成時間を約10分と設定しているが,実際には,マイナーの計算力によりブロック生成速度は変化するため大きく誤差が生じている.
そこで,本研究では,ブロックチェーンにおけるブロック生成時間を安定させ,通貨の価値や取引数を安定させようと考えた.
車両相互監視と位置外れ値検出による V2X 通信なりすまし検知手法(岡村 俊樹)
現在,V2X(Vehicle to Everything)通信を用いて,車両間やインフラ,クラウドなどと通信を行うことができるコネクテッドカー(以下,CV)が開発されている.CVは,自車両の位置・速度情報や道路情報などを他車両やクラウドに送受信することで,様々なサービスが提供可能である.しかし,CVがネットワークに繋がることでセキュリティの問題が生ずる.CVの脆弱性を狙った攻撃として車載ネットワークへの攻撃やV2X通信を用いた攻撃などがある.その1つに車両による位置情報のなりすましがある.位置情報のなりすましは,犯罪を目的としたCVが他車両やクラウドに対して,故意に誤った位置情報を送信する攻撃である.位置情報のなりすましの結果,交通渋滞や事故などを誘発することが可能であり1),CV社会において,偽装された位置情報の検知は重要である.本研究では,「なりすまし」を,車両が故意にクラウドに不正データを送信することと定義する.本論文では,位置情報のなりすましを検知する手法を提案する.
ドローンにおける電波強度を用いた通信暗号化の提案(廣辻 侑哉)
近年,ドローンが普及しており,今後,倉庫内での物資の移動などの屋内におけるドローンの商業利用の需要が増加している.そこで,ドローンの需要が個人利用から商業利用に移ってきたことで,ドローンのセキュリティー対策が重要視されている.キュリティ対策には様々な観点のものがあり,一般社会法人のセキュアドローン協議会がセキュリティーガイドを作成している.そのガイドラインでドローンの制御を奪われる危険性について書かれている.もしも,ドローンを制御する信号が悪意をもった何者かにハッキングされ,ドローンの制御を奪われると非常に危険かつ利益を失いかねない.そもそも,基本的にドローンの通信は暗号化されておらず,飛行前にペアリングを行なっているだけである.そのため,専門知識のある人間が盗聴や制御を奪うことは可能である.そのためドローンの制御をうばれないためには,通信を暗号化することでセキュリティを強化しなけばならない.しかしながら,ドローンの軽量化問題があるために,最も処理が複雑である暗号化手法が最適であるとはいえない.ドローンは飛行するためのユニット以外の重量をいかに軽量化するかによって飛行時間が決まる.そのため,暗号化するための処理ユニットが原因でのドローン全体の重量の増加は最小限に抑える必要がある.この理由から,公開鍵暗号方式をとることができません.そこで,本研究では,電波強度を用いて秘密鍵を生成することで通信を暗号化し,事前に測定した電波強度に基づいて,悪意を持ったコントローラーとの通信を防ぐ手法を提案する.
車両情報を考慮した送信周期決定手法の提案と評価(岸田 慎之介)
近年,車両の安全性や利便性の向上のためのITS(In-telligent Transport Systems)の研究開発が盛んに行われており,車両同士で無線通信を行い,車両情報(位置,速度等)を共有する車車間通信,道路の路側機から道路情報や歩行者情報などを送信する路車間通信,また,路側機同士を通信させることで信号機制御の高度化させる路路間通信などが登場している.その他に,自動運転を実現する手段の一つにダイナミックマップがある.ダイナミックマップは車線の数や信号機の有無といった静的情報,道路を走行している車両数や速度,道路工事の有無などの動的情報,そして,これらに基づいて計算された予測情報を効率的に収集,管理,活用することを支援する基盤システムである.このシステムを利用して,死角やセンサー範囲外の自車両だけでは得られなかった情報から危機予測が可能になるなどの,ダイナミックマップを用いた道路交通の安全性の向上や効率化の研究開発が行われている.
先行研究である,”走行状態を考慮した効率的車両情報送信手法の提案と評価”では、車両自身が取得することができる情報から送信頻度を決定することで通信トラフィックの削減を行った4).しかし,送信頻度の決定方法に問題点がある.そこで,本研究では,送信頻度の問題点を解決する方法を提案し,評価を行う.