2026年4月6日の第174回月例発表会において,M1の佐野 嵩斗,小野 敬生, 末澤 智崇,光久 祥矢,馬渕 皓輝,小野 真如の6名が以下のタイトルで発表を行いました.
BLE指紋法における統計的特徴を用いた位置推定手法の提案と評価(佐野 嵩斗)

近年,屋内における人やモノの位置情報を把握する技術への関心が高まっている.その中でも BLE(Bluetooth Low Energy)を用いた屋内位置推定は,低コストかつ低消費電力で導入可能であることから広く利用が進んでいる.BLE を用いた位置推定では,受信電力強度(RSSI:Re-ceived Signal Strength Indicator)に基づく手法が基本である.理想的な環境では,RSSI は距離減衰モデル(LNSM:Log Normal Shadowing Model)に従うと想定される.しかし,実際の屋内環境では,反射・遮蔽・干渉などの影響により RSSI が大きく変動し,単純な距離推定では誤差が生じやすい.このような背景から,事前に各地点で収集した RSSI から作成した指紋データとの比較により位置推定を行う BLE 指紋法が,実環境に強い手法として広く用いられている.一方で,BLE 指紋法においても,同一地点で取得される RSSI にはばらつきが存在し,特に壁際や角付近では変動幅が増加するため,推定精度が不安定になるという課題がある.しかし,この RSSI のばらつきには地点ごとの特徴が含まれており,それらを統計的特徴として捉え分散などの統計量で定量化することで,位置推定精度の向上が期待できる.本研究では,RSSI の時間的な揺らぎや環境依存性に着目し,BLE 指紋法における位置推定精度を向上させることを目的とする.特に,従来手法において誤差が大きい壁際や角付近の地点における推定精度改善に焦点を当てる.
LDDoS攻撃下のTCP/QUICにおける輻輳制御特性の分析および改良手法の提案(小野 敬生)

LDDoS(Low-Rate Distributed Denial of Service)攻撃は,マルウェアに感染してサイバー犯罪者の管理下にある数千から数百万台のデバイスを使用して正当に見えるアプリケーショントラフィックを低速で送信することで,検知を回避するように設計されているサービス妨害(DoS)攻撃の一種である.TCP の特性を利用するこの攻撃は,図 1 のように少量のトラフィックを特定の間隔で送信して標的となるサーバーや Web サイト,アプリケーション,ネットワークの処理能力の低下や帯域幅,メモリーリソースの枯渇を引き起こし,通信速度の低下や機能停止に陥らせることで正規ユーザーに対応できなくさせる.IETF によって2021 年に標準化されたトランスポートプロトコルの QUIC は,高速な接続確立やセキュリティ機構などの利点から急速に普及し,現在全世界の 8.5% の Web サイトが QUIC に対応している.QUIC は,TCP と類似した再送処理および輻輳制御を行うため,LDDoS 攻撃の標的となる恐れがある.しかし,QUIC に適用可能な輻輳制御アルゴリズムはパケットロスや転送遅延に依存するものなど複数存在しており,攻撃に対して異なる応答を示す可能性がある.そこで,本研究では主要な輻輳制御アルゴリズムである NewReno,CUBIC,BBR を実装した TCP と QUIC のサーバー・クライアントのトポロジーに LDDoS 攻撃を行い,各アルゴリズムに対する輻輳制御特性を分析する.また,その結果を踏まえて BBR の改良手法を提案し,攻撃耐性を検証する.
QUICにおけるコネクションマイグレーション対応動的負荷分散方式の提案(末澤 智崇)

2021 年に標準化されたトランスポートプロトコルである QUIC はコネクションマイグレーション(以降 CM)というクライアントの IP アドレスやポート番号が変化してもコネクションを維持する機能を持ち,ネットワーク回線の切り替え等に対応できるという利点がある.一方,QUIC にはネットワークインフラへの導入において,負荷分散の実現が難しいという課題がある.現在の web サービスは多数のサーバにより構成されており,サーバに多くのクライアントを振り分けるロードバランサ(以降 LB)が必要である.しかし,従来の L4LB を用いた場合,クライアントが CM すると,パケットがコネクションを確立していない別のサーバに振り分けられ,通信が中断されるという課題がある.この課題への対策として,IETF は QUIC 接続に対応した L4LB である QUIC-LB を提案しているが,QUIC-LB は最初の宛先サーバの決定に関して,送信先と送信元の IP アドレスとポート番号のみを基に行う方式について言及しているものの,サーバの負荷を考慮し,動的に負荷分散を行う方式について明確に示していない.QUIC を前提とした実システムでは,サーバの負荷を考慮した負荷分散を行うことが望ましい.そこで本研究では,QUIC-LB のアルゴリズムを応用して,CM 対応の動的な負荷分散方式を提案することを目的とし,その有効性を検証する.
StepGaze:視線入力における誤選択を抑制する順次視線通過型対象選択手法(光久 祥矢)

近年,VR/AR デバイスの普及に伴い視線入力の重要性が高まっている.しかし,情報の知覚と操作を区別できず意図しない選択が生じる Midas Touch 問題が課題である.これに対し,一定時間の注視で確定する Dwell Time 手法が一般的だが,以下の構造的課題がある.第一に,注視が操作トリガーとなることによる視覚探索の阻害である.知覚目的の視線停留が操作と誤認されるため,ユーザは誤選択を恐れて自由な視覚探索が制限される.第二に,操作効率の限界である.設定された Dwell Time が操作速度の下限となるが,操作速度向上のための Dwell Time の短縮は誤選択リスクを増大させるというトレードオフが生じる.第三に,心身への負荷である.待機の強要による精神的ストレスに加え,生理的に不自然な凝視の継続は眼精疲労を誘発する.本研究では,強制的な待機時間の排除,および視覚探索の自由と操作の効率性の確保を目的として,複数の領域を所定の順序で視線が通過することで操作意図を確定する順次視線通過型対象選択手法「StepGaze」を提案する.評価実験では,Dwell Time 手法および既存の視線通過型手法 Reverse Crossing との比較を通じ,その有効性を検証する.
イベント発生を考慮したHybridV2X通信の遅延削減とパケット到達率向上の検討(馬渕 皓輝)

自動運転技術に関する研究では,V2X(Vehicle-to-Everything)通信を利用し,車両情報を含む道路上の動的データを共有し,他の車両などの存在を考慮したより安全な手法が検討されている.V2X 通信とは,車車間通信の V2V(Vehicle-to-Vehicle)通信,車両-ネットワーク間通信の V2N(Vehicle-to-Network)通信などの総称である.LTE(Long Term Evolution)を利用する手法は特に LTE-V2X と呼ばれ,V2V 通信ではデバイス間通信を行い,V2N 通信では,各車両から基地局へユニキャストを行う Uplink 通信,基地局から各車両へのブロードキャストを行う Downlink 通信を行う.V2V 通信と V2N 通信は,それぞれ異なる特性を持つ.V2V 通信は即時性に優れる反面,LTE を用いる場合は全ての車両がブロードキャストを行うため,衝突が起きやすい.一方,V2N 通信は衝突が起きにくい反面,サーバとの通信が必要なため即時性で劣る.通信の衝突が多く発生した場合,パケットが届かないことがある.また,即時性で劣る場合,車両が常に移動しているため情報が劣化する.そこで本研究では,イベント発生の状況に応じ,V2V 通信と V2N 通信を併用する Hybrid V2X 通信を提案し,シミュレーション実験により通信遅延削減とパケット到達率向上に対する効果を検討する.
アクションゲームにおけるFSMDNNを用いたプレイスタイル模倣手法の提案(小野 真如)

近年,ゲームにおける AI は著しい発展を遂げており,特に対戦型ゲームにおいては人間を上回る性能を発揮する AI が登場した.一方で,ゲーム内における AI の行動が過度に最適化されることで,自然な応答性や駆け引きの妙が失われるという課題がある.この課題に対し,人間の行動を学習して同じ動きを再現する模倣学習が注目されている.本研究では,2D 格闘ゲームにおいて人間のプレイを基に模倣学習を行い,ゲームの状況に応じたステート分割とモデル切り替えが模倣精度の向上に与える効果を,分割を行わない模倣学習との比較により検証した.
