2026年2月18日において、B4の、角田 直仁、小野 敬生、末澤 智崇、佐野 嵩斗、平井 佑樹、光久 祥矢、小野 真如、立花 泰理、小林 孝広の9名が以下のタイトルで発表を行いました。
車載カメラ画像認識の軽量化に向けたマルチクラス対応QCNNの適用(角田 直仁)

自動運転技術の進展に伴い,車両周囲の環境認識の重要性が増している.車載システムにも広く適用されている畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network:CNN)は,画像認識において非常に高い性能を示す一方で,モデルの規模が大きくなるにつれて,計算量やメモリ使用量が増加し,車載システムへの実装において制約となる場合がある.このため,CNN を用いた画像認識を車載環境に適用する場合,モデルのパラメータ数を削減し,認識精度を保ちながら軽量化を図る必要がある.近年では,RGB 画像を四元数として統合的に扱う四元数畳み込みニューラルネットワーク(Quaternion Convolutional Neural Network:QCNN)が提案されている.RGB 画像を四元数形式で処理することにより,従来の実数ベースのCNNと比べてパラメータ数を削減し、メモリ使用量やモデルサイズの削減に寄与することが報告されている.四元数を用いることで,RGB 各色の相関を保ちながら,少ないパラメータで表現可能であり,従来手法と同等の認識精度を維持しつつ,モデルサイズの縮小が実現される.そこで本研究では,QCNN を活用することで,車載カメラ画像を対象とした,パラメータ数の削減によるマルチクラス対応の画像認識モデルの軽量化を目的とする.
LDDoS攻撃下のTCP/QUICにおける輻輳制御特性の分析および改良手法の提案(小野 敬生)

LDDoS(Low-Rate Distributed Denial of Service)攻撃は,マルウェアに感染してサイバー犯罪者の管理下にある数千から数百万台のデバイスを使用して正当に見えるアプリケーショントラフィックを低速で送信することで,検知を回避するように設計されているサービス妨害(DoS)攻撃の一種である.TCP の特性を利用するこの攻撃は,図 1 のように少量のトラフィックを特定の間隔で送信して標的となるサーバーや Web サイト,アプリケーション,ネットワークの処理能力の低下や帯域幅,メモリーリソースの枯渇を引き起こし,通信速度の低下や機能停止に陥らせることで正規ユーザーに対応できなくさせる.IETF によって2021 年に標準化されたトランスポートプロトコルの QUICは,高速な接続確立やセキュリティ機構などの利点から急速に普及し,現在全世界の 8.5% の Web サイトが QUIC に対応している.QUIC は,TCP と類似した再送処理および輻輳制御を行うため,LDDoS 攻撃の標的となる恐れがある.しかし,QUIC に適用可能な輻輳制御アルゴリズムはパケットロスや転送遅延に依存するものなど複数存在しており,攻撃に対して異なる応答を示す可能性がある.そこで,本研究では主要な輻輳制御アルゴリズムであるNewReno,CUBIC,BBR を実装したTCPとQUICのサーバー・クライアントのトポロジーに LDDoS 攻撃を行い,各アルゴリズムに対する輻輳制御特性を分析する.また,その結果を踏まえて BBR の改良手法を提案し,攻撃耐性を検証する.
QUICにおけるコネクションマイグレーション対応動的負荷分散方式の提案(末澤 智崇)

2021 年に標準化されたトランスポートプロトコルである QUIC にはコネクションマイグレーション(以降 CM)というクライアントの IP アドレスやポート番号が変化してもコネクションを維持できる機能を持ち,ネットワーク回線の切り替え等に対応できるという利点がある.一方,QUIC にはネットワークインフラへの導入において,負荷分散の実現が難しいという課題がある.現在の web サービスは多数のサーバにより構成されており,そのようなマシンに多くのクライアントを振り分けるロードバランサ(以降 LB)が必要であるが,従来の L4LB を用いた場合,クライアントが CM すると,パケットがコネクションを確立していない別のサーバに振り分けられ,通信が中断されるという課題がある.この課題への対策として,IETF は QUIC 接続に対応した L4LB である QUIC-LBを提案している.しかし QUIC-LB は最初の宛先のサーバ決定に関して,送信先と送信元の IP アドレスとポート番号のみを基に行う方式について言及しているものの,サーバの負荷を考慮し,動的に負荷分散を行う方式について明確に示していない.QUIC を前提とした実システムでは,サーバの負荷を考慮した負荷分散を行うことが望ましい.そこで本研究では,QUIC-LB のアルゴリズムを応用して,CM 対応の動的な負荷分散方式を提案することを目的とし,その有効性を検証する.
BLE指紋法における統計的特徴を用いた位置推定手法の提案と評価 (佐野 嵩斗)

近年,屋内における人やモノの位置情報を把握する技術への関心が高まっている.その中でも BLE(Bluetooth Low Energy)を用いた屋内位置推定は,低コストかつ低消費電力で導入可能であることから広く利用が進んでいる.特に,大学の機材庫や病院の備品室における資産管理など,比較的安定した屋内環境での位置推定が期待されている.BLE を用いた位置推定では,受信電力強度(RSSI:Received Signal Strength Indicator)に基づく手法が基本である.理想的な環境では,RSSI は距離減衰モデル(LNSM:Log Normal Shadowing Model)に従うと想定される.しかし,実際の屋内環境では,反射・遮蔽・干渉などの影響により RSSI が大きく変動し,単純な距離推定では誤差が生じやすい.このような背景から,事前に各地点で収集した RSSI から作成した指紋データとの比較により位置推定を行う BLE 指紋法が,実環境に強い手法として広く用いられている.一方で,BLE 指紋法においても,同一地点で取得される RSSI にはばらつきが存在し,特に壁際や角付近では変動幅が増加するため,推定精度が不安定になるという課題がある.しかし,この RSSI のばらつきには地点ごとの特徴が含まれており,それらを統計的特徴として捉え分散などの統計量で定量化することで,位置推定精度の向上が期待できる.本研究では,RSSI の時間的な揺らぎや環境依存性に着目し,BLE 指紋法における位置推定精度を向上させることを目的とする.特に,従来手法において誤差が大きい壁際や角付近の地点における推定精度改善に焦点を当てる.
ゲームAIにおける人間らしさの客観的評価手法の提案(平井 佑樹)

近年,計算資源の向上と深層学習をはじめとするアルゴリズムの発展に伴い,ゲーム分野における人工知能(AI: Artificial Intelligence)の活用が広がっている.人工知能研究では,機械が人間を超える能力や振る舞いを獲得することを長年の目標としてきた.その例としてチューリングテストが知られている.一方で近年は,盤面ゲームや対戦型ゲームにおいてトップクラスの人間を凌駕する水準に到達した AI も報告されている.しかしゲームにおいて重要なのは勝敗のみではなく,対戦・協力相手としての自然さや学習支援などの体験価値である場合がある.そのため,AI を単に強くするのではなく,迷い・揺らぎ・試行錯誤やリカバリといった効率的だけではない人間の振る舞いへ意図的に近づける人間らしいゲーム AI が求められている.人間らしいゲーム AI の開発には,AI がどの程度人間らしいかを評価し設計に反映する工程が不可欠であるが,従来の評価は主観的で変動しやすく,コストも高い.そこで本研究では,人間らしさを「人間プレイヤーが示す効率的だけではない振る舞いパターンがどの程度表れているか」を表す性質と定義し,行動ログに基づいてゲーム AI の人間らしさの程度を定量化する手法を提案する.
StepGaze:視線入力における誤選択を抑制する順次視線通過型対象選択手法(光久 祥矢)

近年,VR/AR デバイスの普及に伴い視線入力の重要性が高まっている.しかし,情報の知覚と操作を区別できず意図しない選択が生じる Midas Touch 問題が課題である.これに対し,一定時間の注視で確定する Dwell Time 手法が一般的だが,以下の構造的課題がある.第一に,注視が操作トリガーとなることによる視覚探索の阻害である.知覚目的の視線停留が操作と誤認されるため,ユーザは誤選択を恐れて自由な視覚探索が制限される. 第二に,操作効率の限界である.設定された Dwell Time が操作速度の下限となるが,操作速度向上のためのDwell Time の短縮は誤選択リスクを増大させるというトレードオフが生じる. 第三に,心身への負荷である.待機の強要による精神的ストレスに加え,生理的に不自然な凝視の継続は眼精疲労を誘発する.本研究では,強制的な待機時間の排除,および視覚探索の自由と操作の効率性の確保を目的として,複数の領域を所定の順序で視線が通過することで操作意図を確定する順次視線通過型対象選択手法「StepGaze」を提案する.評価実験では,Dwell Time 手法および既存の視線通過型手法Reverse Crossing との比較を通じ,その有効性を検証する.
アクションゲームにおけるFSMDNNを用いたプレイスタイル模倣手法の提案(小野 真如)

近年,ゲームにおける AI は著しい発展を遂げており,特に対戦型ゲームにおいては人間を上回る性能を発揮する AIが登場した.一方で,ゲーム内における AI の行動が過度に最適化されることで,自然な応答性や駆け引きの妙が失われるという課題がある.この課題に対し,人間の行動を学習して同じ動きを再現する模倣学習が注目されている.本研究では,2D 格闘ゲームにおいて人間のプレイを基に模倣学習を行い,ゲームの状況に応じたステート分割とモデル切り替えが模倣精度の向上に与える効果を,分割を行わない模倣学習との比較により検証した.
車両間連携に基づく接近通知音が歩行者の認識に与える影響(立花 泰理)

近年,電気自動車(EV)の普及により車両の静音性が向上している.一方で,歩行者が接近車両を聴覚的に検知しにくくなるという安全上の課題が指摘されている.この対策として,多くの国や地域で低速走行時に車両の存在を通知する接近通知音(AVAS:Acoustic Vehicle Alerting System)の搭載が義務化されている.しかし,複数 EVが同時に接近する状況では,接近通知音が重畳することで進行方向や接近順序の判断が困難になる可能性がある.すなわち,単一車両を前提とした従来の接近通知音設計には課題が残る.そこで本研究では,複数 EV が歩行者に接近する状況において,車々間通信により接近通知音の発音タイミングを調整し,歩行者の EV に対する認識精度向上を図る.具体的には,発音タイミングを独立提示と時間差提示で制御し,車両台数認識および反応時間への影響を定量的に評価するとともに,主観評価を通じて歩行者の使用感や認知負荷への影響についても評価する.
隊列走行内の動的送信電力制御による車車間通信品質向上(小林 孝広)

自動運転技術の発展に伴い,車両同士が走行情報を共有して協調制御を行う協調型自動運転が注目されている.このための基盤技術として,車両同士が基地局を介さずに直接通信を行う NR-V2X sidelink(NR-V2XSL)が注目されている.NR-V2X SL はインフラに依存せずに低遅延な情報共有が可能であり,協調制御に必要な走行情報を車両間で迅速に伝達できるという利点がある.そして,NR-V2X SL を活用した協調型自動運転の応用例として隊列走行がある.隊列走行は複数の車両が一定の車間距離と速度を保って走行することで,安全性向上,燃費削減,渋滞緩和といった効果が期待される.一方で,隊列走行時は車間距離が短く局所的に車両密度が高くなるため,従来方式のように送信電力が固定的である場合には隊列を成さずに走行する単独走行車両への通信干渉が増大しやすく,通信品質が低下する課題がある.そこで本研究では,観測情報として隊列内位置,受信状況,周辺チャネル占有率をもとに隊列走行車両の送信電力を動的に制御し,単独走行車両の車車間通信品質の向上を目的とする.

