こんにちは、広報の鐵野 智也(B4)です。
2025年10月11日の第171回月例発表会(M1)において,松浦 薫(M1),文 治欽(M1),奚 浩然(M1),富成 泰生(M1),徳重 柊人(M1),森 梓恩(M1),野田 虎之介(M1),藤原 直己(M1)の8名が以下のタイトルで発表を行いました.
移動環境におけるメディア配信効率化のためのMedia over QUIC へのマルチパス拡張(松浦 薫)
近年,オンライン会議や動画配信サービスの普及に伴い,屋外でセルラー通信を利用して安定的に動画を閲覧できるよう,各種サービスへの対応が迫られている.そこで,コンテンツ配信ネットワークを活用して1対多,多対多のメディア配信を低遅延かつスケーラブルに構築可能なメディア配信プロトコルとして Media over QUIC(MoQ)が注目されている .MoQ の下層で動作する QUIC は,クライアントの IP アドレスが変わった際に,通信を継続することのできるコネクションマイグレーション機能を備えている .ただし,移動環境では受信電波強度が変動してパケットロスを起こしやすく,単一の通信インタフェースを使用する場合に MoQ アプリケーション上のメディア再生に遅延や画質の低下を引き起こす恐れがある.そこで,複数の通信経路の同時使用を可能にするマルチパス拡張(MPQUIC)を導入し,高い通信速度を安定的に供給することが期待される.しかし MoQ アプリケーション上で複数の QUIC ストリームを多重化し複数の通信インタフェースが利用できる際,低遅延性とメディア品質のトレードオフを図る上でアプリ要件に適したパケットスケジューラを選択する仕組みを欠いており,メディア視聴体験を悪化させてしまう恐れがある.本研究では,MoQ にマルチパス拡張を実装していくつかのパケットスケジューラを構築し,移動環境下のクライアントに対してメディアストリーミングを行うシナリオでメディア視聴品質を評価し,アプリ要件に適したパケットスケジューラへの考察を行う.
ドローンに搭載した熱赤外線カメラによる夜間植物生育状況観測手法の提案(文 治欽)
近年,ドローン技術と赤外線(Infrared,IR)センサの発展により,植物生育及び環境モニタリングは従来の地上観測から空中リモートセンシングへと移行している.昼間のドローンカメラ撮影は,作物の冠温モニタリング,水分ストレス評価(CWSI),蒸散量及び蒸発散(ET)の推定などの分野で広く利用されている.しかし,昼間観測は太陽放射,影効果,地表反射率などの外乱要因の影響を受けやすく,植物本来のエネルギー代謝状態を正確に反映しにくい課題がる.夜間は太陽短波放射が存在しないため,赤外線信号は主に植物自身の熱放射によって構成される.従って,夜間赤外線観測は植物の真の温度変化,水分状態,呼吸過程をより正確に反映することができる.本研究は,仮想環境を考え上,夜間におけるドローンに搭載した赤外線カメラによる植物観測を行い,夜間赤外線観測の有効性と実現可能性を検証することを目的とし,ドローンに搭載した赤外線カメラによる夜間赤外線観測手法を提案する.
Reducing Latency in ITS using KCP and Edge Computing with Intelligent Load Balancing Algorithms(奚 浩然)
Internet of Vehicles (IoV) is a new technology for smart city. Connected vehicles can publish data sharing their driving information so that ITS can subscribe these data to provide cooperative services. The characteristic of event-driven architecture is to react to real-time service functions dependent on event trigger mechanism so that it is suitable to build situation-aware traffic applications. Due to the mobility of vehicles and limited bandwidth in wireless communication, data transmission may experience delays and losses. Therefore, it may affect the accuracy and responsiveness of cooperative services in the cloud. Some of the newer ITS systems are event-driven based, and they require better handling of network issues. KCP is a low-latency Automatic Repeat-reQuest
(ARQ) algorithm in which more reliable communica-tion can be obtained by adding intra-packet FEC. Edge computing is a new computing paradigm that moves computation tasks from cloud to network edges and promises to reduce response latency and save bandwidth usage in wireless network for IoV. In addition, intelligent algorithms can be used to group vehicles, thereby avoiding overload at edge nodes.
複数物体追跡によるオクルージョン処理及び LiDAR・GPS 統合利用による歩行者特定手法の提案(富成 泰生)
近年,交通事故による死亡者は,歩行中が最も割合が多くなっている.これらの事故を防止するためには衝突事故防止技術のさらなる高度化が求られる.そのため,車両に対して歩行者の存在を通知し,警告を発するシステムの研究が進展しているが,車両だけでなく,歩行者自身にも警告を提供することで,交通事故のさらなる軽減が期待される.歩行者に警告を提供するには歩行者が所持する端末を特定する必要がある.また,以降は各歩行者が所持する端末を歩行者端末と表記する.しかし,歩行者端末に搭載されている GPS(Global Positioning System)センサは,各歩行者を識別できる一方で,位置情報の精度に誤差が大きい.一方,路側センサである LiDAR(Light Detectionand Ranging)は,各歩行者を識別できないが,GPS センサよりも高精度で歩行者の位置情報を取得可能.また,障害物によって視界が遮られるオクルージョンの影響を受けるため,歩行者が障害物に隠れると検出が困難になる.そこで,本研究では,障害物によるオクルージョンが発生する状況において,LiDAR 及び GPS センサの統合利用を行うことにより,LiDAR で検出された歩行者及び歩行者端末を特定することで,より高精度な位置情報を取得しつつ,各歩行者の識別を可能にする手法を検討する.
視線および自然言語を用いた目的地推定による UAV 制御手法の提案(徳重 柊人)
近年,UAV(Unmanned Aerial Vehicle)は, インフラ点検,災害対応, 撮影, 物流など幅広い分野で活用が進んでいる.一方で, 従来の UAV 操作は操縦スキルや位置情報指定を必要とし, 一般ユーザーが直感的に操作することは容易ではない. この課題を解決するため, 自然言語によって UAV を制御する研究が注目されている.特に, 近年の大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)の発展により, 曖昧な自然言語命令を理解して高レベルな行動指令に変換することが可能となった. これをUAV 制御に応用することで, ユーザーが「~に飛んで」「~を撮影して」といった直感的な命令で飛行を指示できるインターフェースの実現が期待されている. しかし, 既存の自然言語操作型 UAV 研究の多くは, 目的地の座標やランドマーク位置が既知であることを前提としており, 未知環境下でユーザーの意図を柔軟に反映させることは難しい. 視覚情報と言語命令を統合して経路生成を行い UAV を制御するシステムが提案されているが, ユーザーが実際にどの対象を指しているかを推定する仕組みは備えていない.そこで本研究では, 位置情報が未知な状況においても, 自然言語命令と視覚情報, さらにユーザーの視線情報を統合することでユーザーの意図を理解し, 目的対象へ飛行制御可能な UAV 操作システムを提案する.
車両合流時における NR-V2X ユニキャスト利用時の通信信頼性向上の検討(森 梓恩)
自動運転の高度化に伴い高信頼・低遅延を満たす通信の実現が求められる.そこで車両同士が直接通信を行う車車間通信の研究が行われている.車車間通信の通信手段として,LTE 技術を応用した LTE-V2X PC5 や 5G 技術を応用した NR-V2X PC5 がある.両方式はブロードキャストが可能であるが,NR-V2X PC5 ではユニキャストが可能である.ユニキャストは受信確認や再送制御が可能であるため,ブロードキャストより高い通信の信頼性が期待できる.車車間通信を行うユースケースとして,高速道路の合流可能地点付近で,合流車線を走行する合流車両と本線車線を走行する本線車両が協調的に車線変更を行う合流時がある.合流時では,車線変更を行わない本線車線走行時と比較して高信頼・低遅延な通信要件が求められる.そこで合流車両と本線車両の車車間通信によるユニキャストが期待できる.車車間通信において,車両が通信を行うためには,パケットを送信する時間と周波数を表す無線リソースを車両が自律的に割り当てる必要がある.LTE-V2X PC5や NR-V2X PC5 の無線リソース割り当て方式として SPS(Semi-Persistent Scheduling)方式がある.SPS 方式の無線リソース割り当て手順では,他車両が使用する無線リソースや受信電力を取得することで,選択可能な無線リソースの中で信頼性の高い無線リソースを選択できる.しかしSPS 方式では,通信要件に応じた無線リソース割り当てを行わない.そのため SPS 方式では,ブロードキャスト及びユニキャストに用いる無線リソースは同一の条件で割り当てるため,ユニキャストを行う上で合流時における通信要件を満たさない可能性がある.本研究では,合流車両が本線車両とユニキャストを行うための無線リソースを予約する新たな無線リソース割り当て方式を検討する.この方式により合流時の合流車両と本線車両のユニキャストにおける通信の信頼性向上を目指す.
協調型自動運転のためのフリースペース情報による物標認識の信頼性向上(野田 虎之介)
近年,車両が路側センサを備えた路側機や周辺の他車両との間で通信を介して情報共有を行い,効率的な走行を実現する協調型自動運転に関する研究が活発に進められている.協調型自動運転では,自車両の車載センサで見通せない領域の情報を取得することで,車載センサの検知範囲を超えた周辺環境の認識が可能となる.従来の環境認識は,物標の位置や速度を示す物標情報に基づいて判断が行われてきた.しかし,物標情報のみを用いた環境認識では,通信エラーやセンサ設置環境の悪化などにより,物標が存在していても物標情報が取得できない場合があり,そのような場合でも当該領域は物標が存在しないとみなされ,安全と誤認される可能性がある.また,物標情報は物標を検知したときにのみ出力されるため,物標が存在しない場合と検知漏れによる無出力とを区別することができない.すなわち,物標情報のみでは,センサが実際に検知できている領域と,検知できていない領域を識別することは困難である.そこで,道路およびその周辺において物標が存在しない領域を示すフリースペース情報の活用が検討されている.フリースペース情報の共有を行うことにより,それぞれのセンサで検知できている領域を識別することができ,環境認識の信頼性向上が期待される.本研究では,車載センサにおいて路面の直接検知により取得したフリースペース情報と物標情報を併せて共有することにより,環境認識の信頼性が向上するかを検討する.物標情報だけでは安全が確保できない状況を想定し,シミュレーション実験を通じてフリースペース情報共有の有効性を示す.
時空間ボクセル予約に基づく混雑空域におけるドローンフォーメーションの飛行調停手法の検討(藤原 直己)
近年,ドローンは幅広い領域で活用が進められている.特に,市街地への宅配をはじめとする物流,インフラ点検や測量,農業といった分野では実証実験が進められるなど,実現に向けた取り組みが活発化している. しかし,ドローンはバッテリー容量の観点から飛行時間や距離が限られている.そのため,ドローンのフォーメーション制御が注目されている.複数のドローンが適切なフォーメーションを組んで飛行することで,単機での飛行と比べ,推進効率の改善や揚力上昇という効果を得られ,それにより消費電力を抑えることができる.しかし,複数のドローンが飛行する空域において,他のドローンとの飛行経路の重複による接触や,地上に存在する障害物との衝突が発生するという課題がある.そのため,衝突を回避しながら目的地まで飛行するための飛行制御を行う必要がある.しかし,空域が混雑している場合,すべての障害物を回避するためには膨大な計算をする必要があり,その結果計算時間が増加することで安全に飛行することが困難となる.そこで,本研究ではフォーメーション飛行時におけるドローンの安全な飛行を実現することを目的とし,時空間ボクセル予約によるドローンのフォーメーション制御手法を検討する.