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第173回月例発表会 (B4)

2025-12-20

こんにちは,広報の馬渕(B4)です.

2025年12月20日の第173回月例発表会(B4) において,佐野 嵩斗,光久 祥矢,立花 泰理,馬渕 皓輝,小野 真如,鐵野 智也,末澤 智崇,平井 佑樹,小林 孝広,小野 敬生,角田 直仁,富永 泰史の12名が以下のタイトルで発表を行いました.

BLE指紋法における統計的特徴を用いた位置推定手法の提案と評価 (佐野 嵩斗)

20251220 SSano

近年,屋内における人やモノの位置情報を把握する技術の関心が高まっている.その中でも Bluetooth Low Energy (BLE) を用いた屋内測位は,低コスト,低消費電力で導入可能であることから広く利用が進んでおり,物流支援やロボットの自己位置推定,見守りシステムなど多様な応用が期待されている.BLE を用いた位置推定では受信電力強度(RSSI:Received Signal Strength Indicator)に基づく手法が基本であり,理想的な環境では距離減衰モデル(LNSM:Log Normal Shadowing Model)に従うと想定される .しかし,実際の屋内環境では反射・遮蔽・干渉などにより RSSI が大きく変動し,単純な距離推定では誤差が生じやすい.このため,指紋法が有力な測位手法として広く用いられている .指紋法ではオフライン段階で各地点の RSSI を収集して指紋データを作成し,オンライン段階で取得した RSSI と照合して位置を推定する.一方で,RSSI は同一地点においてもばらつきが大きく,特に壁際や角付近では変動幅が増加するため,推定精度が不安定になるという課題がある.そこで本研究では,RSSI の分布特性に着目し,平均値・分散・標準偏差・最小値・最大値・四分位範囲(IQR)など複数の統計的特徴量を用いて指紋データを補正する位置推定手法を提案する.さらに,他の指紋法ベースの手法との比較評価も行い,本手法の有効性を明らかにする.

StepGaze:視線入力における誤確定を抑制する順次視線通過型確定方式 (光久 祥矢)

20251220 SMitsuhisa

近年,視線を用いた入力インタフェースの研究開発が活発化している.視線入力は,上肢に運動機能障害を持つユーザへの支援技術としてだけでなく,Head-Mounted Display (HMD) の普及に伴い,VR/AR を含む没入型環境におけるハンズフリーかつ直感的な操作手段として,その重要性が高まっている.一方で,視線移動は本来,人が情報の知覚のために行う自然な動作であり,視線入力を用いて PC やタブレットなどのデジタルデバイスを操作する際には,画面上の情報を知覚するための視線移動と,システムを操作するための視線移動が混在する.そのため,情報の知覚を目的とした視線移動が,システムの操作を目的とした視線移動として誤って処理されてしまう「Midas Touch 問題」が課題となっている.本研究の目的は,これら 2 種類の視線移動が混在する環境において,誤確定を抑制しつつ実用的な速度での操作を可能にすることである.この目的を達成するために,本研究では跳躍性眼球運動(サッカード)を選択の契機とする新たな方式「StepGaze」を提案し,その有効性を検証する.

車両間連携に基づく接近通知音が歩行者の認識に与える影響 (立花 泰理)

20251220 DTachibana

近年,電気自動車(EV)の普及に伴い,車両の静音性が向上している.その一方で,歩行者が接近する車両を聴覚的に検知しにくくなるという安全面の課題が指摘されている .この課題に対処するため,多くの国や地域では,低速走行時に車両の存在を歩行者へ知らせる接近通知音(AVAS:Acoustic Vehicle Alerting System)の搭載が義務化されている .しかし,複数の EV が同時に歩行者へ接近する状況では,各 EV の AVAS が同時に発音されることで音が重畳し,歩行者が EV の進行方向や接近順序を正確に判断することが困難になる可能性がある.つまり,単一車両を想定した従来の AVAS 設計では十分な安全性を確保できないという課題が存在する.そこで本研究では,複数の EV が歩行者に接近する状況に着目し,歩行者の EV に対する認識精度の向上を目的とする.複数 EV が車々間通信によって連携し,歩行者に対する AVAS の発音タイミングを調整する手法を提案する.具体的には,AVAS の発音タイミングを同時または時間差で制御した場合における,歩行者の車両台数認識,音源方向定位,および反応時間への影響を評価する.

イベント発生を考慮したHybrid V2X通信の遅延削減とパケット到達率向上の検討 (馬渕 皓輝)

20251220 KMabuchi

自動運転技術に関する研究では,V2X(Vehicle-to-Everything)通信を利用し,車両情報を含む道路上の動的データを共有し,他の車両などの存在を考慮したより安全な手法が検討されている.V2X 通信とは,車車間通信の V2V(Vehicle-to-Vehicle)通信,車両-ネットワーク間通信の V2N(Vehicle-to-Network)通信などの総称である.LTE(Long Term Evolution)を利用する手法は特に LTE-V2X と呼ばれ,そのアーキテクチャには PC5 インターフェースと Uu インターフェースがある.前者は V2V 通信などのデバイス間通信に利用される.一方,後者は V2N 通信に利用され,各車両から基地局へユニキャストを行う Uplink 通信,基地局から各車両へのブロードキャストを行う Downlink 通信が可能である.V2V 通信と V2N 通信では,場合により発生する通信量に差がある.V2V 通信の計算量は車両台数 n に対し O(n^2) となり,車両数の増加により通信量が膨大になる.一方,V2N 通信では車両はサーバとの通信のみ行うため,計算量は O(n) となる.車両数の増加により通信量が膨大になることはないが,サーバとの通信を行うため一定の通信量が常時発生する .そこで本研究では,イベント発生の状況に応じ,V2V 通信と V2N 通信を併用する Hybrid V2X 通信を提案し,シミュレーション実験により通信遅延削減とパケット到達率向上に対する効果を検討する.

アクションゲームにおけるFSMDNNを用いたプレイスタイル模倣手法の提案 (小野 真如)

20251220 MOno

近年,ゲームにおける人工知能(以降 AI)技術は著しい発展を遂げており,特に対戦型ゲームにおいては人間を上回る性能を発揮する AI が登場している.一方で,AI の行動が過度に最適化されることで,プレイヤとの対戦において「自然な応答性」や「駆け引きの妙」が失われるという課題も指摘されている.こうした背景の下,プレイヤの行動特性を模倣する研究が注目されつつある が,その精度はまだ限定的であり,特に,ゲーム内の状況に応じたプレイスタイルの変化を再現する点については,現在の模倣手法では十分に再現できているとはい言い難い.本研究は,対戦型 2D 格闘ゲームにおいて,特定プレイヤのプレイスタイルを模倣する AI の構築を目的とする.AI の模倣精度を向上させることで,プレイヤが行う戦術の変化をより正確に再現し,自然な対戦・協力体験を実現する.これにより,ゲームにおけるユーザ体験が期待され,プレイヤにとってより魅力的なゲーム体験を提供することが可能となる.

RSSI を用いた RSU 通信範囲内におけるなりすまし攻撃検出手法の提案 (鐵野 智也)

20251220 TTetsuno

近年,ITS(Intelligent Transport Systems)分野では,車両同士や車両とインフラとの無線通信を通じて,交通事故防止や渋滞緩和などを目的とした研究が活発に進められている.その中で,クラウドを利用した安全運転支援サービスがあり,大量の交通データを効率的に収集および分析し,リアルタイムに運転支援情報を提供できるという利点から注目を浴びている.一方で,不正なデータ転送などの攻撃によって誤った情報が配信され,その情報を基にシステムが判断を下すことで,事故の誘発や交通渋滞の悪化といった事態を招く.攻撃の 1 つとして,車両が虚偽の位置情報を送信するなりすまし攻撃が問題となっており,システムの安全性を脅かす要因となっている.車両がなりすましを行うことで,交通データの信頼性が低下し,車両同士で連携が取れず渋滞や交通事故に繋がる.よって,なりすまし攻撃は安全運転支援サービスにとって脅威であり,対策が必要である.なりすまし攻撃の検出手法として,既存研究では複数車両による相互監視に基づいて,なりすましを検出するアプローチが用いられている.しかし,周囲に車両が存在しない車両密度が低い状況では,相互監視が成立せず攻撃検出が困難であるという課題がある.そのため,車両密度が低い状況でも攻撃を検出できる軽量な手法の確立が求められている.本研究の目的は,車両密度が低い状況においても通信範囲内のなりすまし攻撃を検出することである.そのため,RSU 通信範囲内で車両が送信する位置情報と,それに対応する RSSI(Received Signal Strength Indicator)を取得し,両者の整合性を確認する手法を提案する.

QUICにおけるコネクションマイグレーション対応動的負荷分散手法の提案 (末澤 智崇)

20251220 SSuezawa

2021 年,IETF は TCP や UDP に次ぐ新たなトランスポートプロトコルとして QUIC を標準化した.QUIC にはコネクションマイグレーションというクライアントの IP アドレスやポート番号が変化してもコネクションを維持できる機能があり,ネットワーク回線の切り替え等に対応できる という利点がある. 一方,QUIC にはネットワークインフラへの導入において,負荷分散の実現が難しいという課題がある .例えば,現在の web サービスは多数のサーバにより構成されており ,そのようなマシンに多くのクライアントを振り分けるロードバランサ(以降 LB)は必要である.しかし,従来の L4LB を用いた場合,パケットがコネクションを確立していない別のサーバに振り分けられ,通信が中断されるという課題がある.この課題への対策として,IETF では QUIC 接続に対応した L4LB である QUIC-LB が提案されている.しかし QUIC-LB は最初の宛先のサーバ決定を,送信先と送信元の IP アドレスとポート番号のみを基に行わなければならず ,動的な負荷分散手法を用いることは想定されていない.そのため,サーバの負荷に応じた柔軟な負荷分散を行うことができない. そこで本研究では,QUIC-LB のアルゴリズムを応用してコネクションマイグレーションに対応した動的な負荷分散手法を提案することを目的とし,その有効性を検証する.その際,コネクションマイグレーションへの対応性の評価ではスループット,負荷分散性能の評価では CPU 使用率,スループット,コネクション数を基に評価を行った.

ゲームAIの人間らしさの客観的評価指標の提案 (平井 佑樹)

20251220 YHirai

近年,ゲーム分野において人工知能(AI: Artificial Intelligence)の活用が広がっており,強いゲーム AI や難易度 調整など,さまざまな場面で高度なゲーム AI が活躍している .これらのゲーム AI は,「プレイヤーに勝つ」「最適な手を選ぶ」といった強さや効率を重視して開発されることが多い.一方で,人間と遊んでいるかのような自然さや親しみやすさを持つ「人間らしいゲーム AI」への関心も高まっている.近年では,対戦ゲームや協力ゲーム,教育用途など,プレイヤー体験の質を高める手段として,ゲーム AI に人間らしい振る舞いが求められている.しかし,これまでの人間らしいゲーム AI の評価は,アンケートなどの主観的かつ定性的な手法に依存している場合が多い .そのため,人間らしいゲーム AI の評価では,AI 同士の優劣や改良の効果を明確に比較することが難しく,評価結果の再現性や客観性が十分に確保されていないという課題がある.そこで本研究では,ゲーム AI の人間らしさを客観的かつ定量的に評価するための指標を提案する.人間のプレイデータに基づいた複数の指標を用いて,「このゲーム AI はどの程度人間らしいか」を客観的かつ定量的に示せる仕組みを構築する.

隊列走行時における動的送信電力制御による車車間通信品質向上 (小林 孝広)

20251220 TKobayashi

自動運転技術の発展に伴い,車車間通信を活用した協調型自動運転が注目されている.その応用技術の一つである隊列走行は,複数の車両が一定の車間距離と速度を保って走行することで,交通の安全性向上,燃費削減,渋滞緩和といった効果が期待されている.隊列走行を安定的に実現するためには,前走車および先頭車両の走行情報を高信頼・低遅延で取得することが重要である .隊列走行における高信頼・低遅延通信を実現するための手法として,車両同士が直接通信を行う NR PC5 が注目されている.NR PC5 は基地局を介さずに車両同士が直接通信する方式であり,各車両が周囲の通信リソースの使用状況を基に自車の通信リソースを自律的に選択する方式が採用されている.この方式により,基地局に依存せずに低遅延な通信が可能となる.一方で,車両密度が高い環境ではリソース選択の衝突や持続的な干渉によりパケット損失が発生しやすいという課題がある.また送信電力が高い場合,通信範囲が不要に広がり,隊列外の車両にも干渉を与えてしまい,全体として通信品質が低下する課題がある.本研究では,隊列走行において必要とされる通信要件を維持しつつ,周囲の車両を含めた干渉を抑制するために,隊列内車両の送信電力を動的に制御する方式を検討する.車両の位置,隊列長,走行速度,周辺チャネル占有率の観測情報を基に,各車両が必要最小限の送信電力で通信を行うことで,隊列外の車車間通信品質を向上させることを目的とする.

LDDoS攻撃下のTCP/QUICにおける輻輳制御特性の分析および改良手法の提案 (小野 敬生)

20251220 TOno

LDDoS(Low-Rate Distributed Denial of Service)攻撃は,マルウェアに感染してサイバー犯罪者の管理下にある数千から数百万台のデバイスを使用して正当に見えるアプリケーショントラフィックを低速で送信することで,検知を回避するように設計されているサービス妨害(DoS)攻撃の一種である.TCP の特性を利用するこの攻撃は,図 1 のように少量のトラフィックを特定の間隔で送信して標的となるサーバーや Web サイト,アプリケーション,ネットワークの処理能力の低下や帯域幅,メモリーリソースの枯渇を引き起こし,通信速度の低下や機能停止に陥らせることで正規ユーザーに対応できなくさせる.IETF によって2021 年に標準化されたトランスポートプロトコルの QUIC は,高速な接続確立やセキュリティ機構などの利点から急速に普及し,現在全世界の 8.5% の Web サイトが QUIC に対応している .QUIC は,TCP と類似した再送処理および輻輳制御を行うため,LDDoS 攻撃の標的となる恐れがある.しかし,QUIC に適用可能な輻輳制御アルゴリズムはパケットロスや転送遅延に依存するものなど複数存在しており,攻撃に対して異なる応答を示す可能性がある.そこで,本研究では主要な輻輳制御アルゴリズムであるNewReno,CUBIC,BBR を実装した TCP と QUIC のサーバー・クライアントのトポロジに LDDoS 攻撃を行い,各アルゴリズムに対する輻輳制御特性を分析する.また,その結果を踏まえて BBR の改良手法を提案し,攻撃耐性を検証する.

マルチクラス対応QCNNを利用した車載カメラ画像の認識精度向上 (角田 直仁)

20251220 NKadota

自動運転技術の進展に伴い,車両周囲の高精度な物体検出が求められている.畳み込みニューラルネットワーク (Convolutional Neural Network:CNN) は物体検出において高い性能を示すが,RGB 各チャネルを独立に扱うため,色情報の相関性を十分に活用できない課題がある.この課題を解決する手法として,RGB 画像を四元数として統合的に扱う四元数畳み込みニューラルネットワーク (Quaternion Convolutional Neural Network:QCNN) が提案されている .QCNN は色情情報の文脈を学習することで精度向上が期待されるが,従来研究では実世界データでの多様な物体検出への応用は十分に検証されていない.本研究では,車載カメラ画像を対象に,多様な物体検出の認識精度の向上を目指す.

移動環境における地理的情報のプリフェッチ手法 (富永 泰史)

20251220 TTominaga

近年,自動運転技術の発展により,車両はネットワークを通じて高精度地図や交通情報,周辺環境データをリアルタイムで取得しながら安全な走行を実現している.特に Vehicle-to-Everything(V2X)通信の普及によって,車車間・路車間での情報共有が高度化しつつある.一方,都市部における高層ビル群やトンネル内といった環境では,通信ネットワークとの接続が一時的に遮断されることがあり,その間に必要な情報が取得できず,自動運転の判断精度に影響を及ぼす恐れがある.このような状況は走行の安全性・信頼性を損なう要因となるため,通信途絶への対策が重要である.本研究では,通信途絶が予測される走行経路を事前に特定し,断絶前に必要な地理的情報を車両へ送信しておくプリフェッチ手法を提案する.走行中,車両は,路側機(Roadside Unit,RSU)に対して自己位置と進行方向を送信し,路側機は,受信した情報(車両位置,進行方向)を基に,将来の走行経路を推定する.その後,基地局が RSU からの情報と過去の通信品質データをもとに,通信途絶が発生しうる領域とタイミングを特定し,該当区間へ進入する直前に必要な情報を車両に送信する.事前送信を行うことで,通信途絶中でもキャッシュされた情報に基づいて安全な走行が可能となる.

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